社内報コラム

ナラティブを知る。ストーリーテリングとの違いとは?

ナラティブを知る。ストーリーテリングとの違いとは?

企業のブランディングやマーケティングの分野で、近頃注目を集めている「ナラティブ」。「物語」という語義から「ストーリーテリング」と混同する人も多いのですが、ナラティブとストーリーテリングには明らかな違いがあります。

そこで今回は、企業のコミュニケーション戦略でこれから重要な概念になりそうなナラティブについて詳しく解説します。

ナラティブとストーリーはここが違う

 

物語、話術、語り口などの意味を持つナラティブ(narrative)は「ナレーター」「ナレーション」と語源を同じくする英語で、もともとは1960年代に定着した文学理論の用語でした。

物語を表す英語としてはストーリー(story)の方がなじみ深いですが、作り込まれたシナリオに沿って一方的に語られる物語がストーリーであるのに対し、語り手自身が主人公となり現在進行形で自由に紡いでいく物語がナラティブです。

わかりやすく例えるなら、起承転結のある小説やドラマの世界はストーリーで、自らの選択により筋書きや結末が変わるRPGの世界がナラティブだと言えるでしょう。

 

ナラティブ ストーリー
演者 あなた(生活者) 企業やブランド
時間 ·  常に現在進行形

·  「これから起こること」を含めた未来の話

·  始まりと終わりが存在する

·  起承転結型

舞台 社会全体 その企業が属する業界や競合環境

出典:ナラティブカンパニー 企業を変革する「物語」の力/本田哲也

ナラティブはなぜ注目されるようになったのか?


文学の世界で使われていたナラティブという概念は、90年代には心理学や教育、医療などの領域へと広がり、ここ数年の間にマーケティングの世界でも注目されるようになってきました。

ナラティブが注目されるようになった背景には、ネットの情報爆発とSNSの普及があると言われています。

PCやスマホでネットに常時アクセスできる現代社会では、人々が日々接する情報の量は爆発的に増え続けて、企業側が一方的に発信するストーリーは効果的に機能しなくなりつつあります。

またSNSの普及によって、一人ひとりが自分の体験をストーリーとして発信しやすくなったことも、情報の氾濫に拍車をかけています。

その結果、どの情報が事実でどれが虚構なのかが判別しづらくなってきました。企業が発信するストーリーも、SNSのさまざまな文脈で解釈や誤読をされることで思わぬ炎上を招いたり、真偽不明の風評が流れたりしやすい状況になっています。

こうした中、自社の想いに共感してくれる人を増やしファンであり続けてもらうには、シナリオに沿って一方的に語るストーリーテリングよりも、人々が自分の物語として語りやすいナラティブの方が有効になってきたのです。

ナラティブなアプローチを行うメリット

ナラティブなアプローチには次のようなメリットがあります。

ユーザーから好感が得られやすくなる

ユーザー一人ひとりが主人公となり、それぞれの物語がつくられるようにするのがナラティブの手法です。

ナラティブなアプローチで商品(サービス)をプロモーションすると、そのメッセージに触れたユーザーは「この商品(サービス)を取り入れたらどうなるのか」と、自分だけの物語を思い浮かべて感情移入する余地が生まれます。

これにより、画一的なストーリーテリングの手法では届かなかった層にまでメッセージが届き、好感が得られやすくなります。

さらに、商品(サービス)やその作り手が発するメッセージへの共感は、やがて愛着へと変わり、将来的にはリピーターやロイヤルカスタマーの育成にもつながりやすくなります。

 

商品(サービス)の本質的な価値が伝わる

ナラティブなアプローチの目的は、ユーザーに「自分だけの物語」を思い浮かべてもらうことです。そのためにはユーザーがイメージしやすいよう、商品(サービス)の特長を明示するだけでなく、「どんなシーンでどう使うのか」、「使うとどうなるのか」まで突き詰めた形でメッセージを送らなくてはいけません。

例えば、ここに丈夫な皮のカバンがあるとします。その魅力を伝えるにあたって、「職人の技で、どういう皮をどう加工したから何十年でも使える」と、作り手のこだわりを物語として伝えるのがストーリーテリングです。

それに対してナラティブでは、「この先何十年もあなたの相棒になる」「歳月と共に皮があなた色に染まっていく」というように、ユーザーとカバンにまつわる物語を表現していきます。

カバンの品質の高さをメリットとして自ら語るより、ナラティブなアプローチの方が、ユーザー自身にとっての本質的な価値に気づいてもらえるのです。

昨今注目されている、ファンをベースにして売上や事業価値を中長期的に高めていこうとするマーケティング手法”ファンベースマーケティング”についてはこちらへ

ナラティブなアプローチの成功事例

ナラティブなアプローチを企業がどのように実践しているのか、事例を2つご紹介しましょう。

SUBARU

2011年より大手自動車メーカーSUBARUは、「あなたとクルマの物語」というコンセプトのもと、「Your story with」というドラマ仕立てのシリーズ動画を通じてナラティブなアプローチを展開しています。

各動画はいずれも、「あなたとクルマ、どんな物語がありますか?」というナレーションで始まり、1人の製品ユーザーを主人公とする2分程度の物語で構成されています。

その狙いはドラマの中のユーザー体験を観た人に共有してもらい、クルマにまつわる自らの物語を想起させることにあります。物語の中にSUBARUの理念や車の説明などは一切入っていません。

SUBARUが地道に続けてきたナラティブは多くの人から共感を得て、CMからドラマ、小説へと発展するなど着実に成果を収めています。

 

パンテーン

ヘアケアブランドのパンテーンは、「#この髪どうしてダメですか?」をテーマにしたキャンペーンを展開。ナラティブなアプローチでブランドイメージを向上させました。

このハッシュタグは、生まれつき髪が茶色い生徒などに「地毛証明書」の提出を求めたり、黒く染めさせたりする日本の学校の髪型校則について疑問を呈し、広く世の中に問いかけたものです。

パンテーンは、実際に悩みを持つ生徒と先生がホンネで対話する場を設け、その様子を収めたドキュメンタリームービーを制作。似たような経験を持つ生活者一人ひとりに、自分の体験を想起させるような内容が共感を呼びました。

社会的な課題とヘアケアを巧みに結びつけたこのアプローチはSNSで盛り上がり、さまざまなメディアで取り上げられたこともあって、黒染め指導の廃止を求める署名活動へと発展。最終的には2万人もの署名が東京都教育委員会へ提出され、その結果「生来の頭髪を一律に黒染めするような指導は行わない」との回答が得られました。

そしてブランドイメージの古さによって売上が低迷していたパンテーンは、この企画を機に生活者からの印象が変わり、イメージと売上の向上につながりました。

まとめ

SNSの浸透によって企業発信のストーリーが届きにくくなったり、誤読されやすくなった今日。ユーザーと物語を共有しながらブランドを進化させるナラティブは、大きな可能性を秘めた手法だと言えるでしょう。

もしあなたの会社が意義のあるパーパスを持ちながらも、今ひとつ支持が得られていないと感じたら、生活者を主人公にしたナラティブなアプローチを試すことで、これまでと違う共感の輪が広がるかもしれません。

社内報に関するご相談、問い合わせはこちらから

関連記事