社内報コラム

AI生成物に著作権は発生するのか?侵害ケース3選と対策方法を解説

AI生成物に著作権は発生するのか?侵害ケース3選と対策方法を解説

AI技術の進化により、高度なクリエイティブ作品の生産率が向上しました。SNSや投稿サイトにオリジナル作品をアップロードする人が増え、クリエイターの人口が世界的に急増しています。しかし「AIが作り出した作品に著作権はあるの?」「自由に利用できる範囲は?」と疑問に思う方も多いでしょう。

 

本記事では、AI生成物の著作権の有無を事例別に取り上げ、著作権の侵害を防ぐための方法を解説します。イラストや小説作品などのAI創作物の取り扱いに不安がある方は、ぜひご覧ください。

 

記事監修:弁護士 南 陽輔

そもそも著作権とは?

「著作権」とは、小説やイラストから映像・音楽などの創作作品を保護するための法律です。作品の制作者(著作者)が権利を主張することができ、無許可での複製・転載や酷似作品の制作を禁止するためにあります。

 

従って、他人の作品を転載や販売などで利用する場合には著作者に許可が必要です。無許可で利用した際は著作権侵害として「10 年以下の懲役又は1000 万円以下の罰金」が科せられ るため、注意しましょう。例外として、作品内における客観的な事実や作風・画風などの抽象的な存在には著作権が適用されません。

AI生成物には著作権が発生するのか?

AIが自動で生成した作品には、著作権が発生しません。著作権法の第二条 によると、著作物は「思想又は感情を創作的に表現したもの」と定義されています。

 

手作業で制作した作品には、思想や感情が作風に込められていますが、AIは「機械」であるため創作に「思想や感情」を込めていません。よって、具体的な指示を与えずに、例えば「生成」ボタンを押すだけでAIが生成した作品などは著作物には該当しません。著作権を主張するには「人が創作に関与すること」が必要であり、人が創作意図を以ってAIを利用して作成した場合や、AI生成物の作成過程で人が創作的寄与と認められる行為を行ったか場合などでは、AI生成物においても著作権が認められま。

 

AI生成物が著作権侵害に値するケース3選

AI生成物が著作権侵害に値するかは、通常の著作権と同じく以下の項目で判断されます。

 

  1. 「類似性」…既存の著作物が「独自」に持っている創作表現と似ているか(汎用的なアイディアや一般的に浸透している表現は対象外)
  2. 「依拠性」…既存の著作物を認知したうえで自己作品に用いたか(既存の著作物を把握せずに偶然類似した場合は対象外)

 

裁判では、上記の2点が満たされると、「著作権の侵害」が認定されます。2023年時点で著作権侵害か問題となる事例は以下のとおりです。

1. 既存の著作物と酷似している生成物を商用利用した場合

「AIで生成したイラストや画像を販売していいの?」と悩む方は多いでしょう。AI生成物を販売することは問題ないように思えますが、その作品(AI生成物)の構成要素が既存の著作物と酷似している場合は、著作権の侵害となりえます。

 

構成要素は登場する人物や背景描写・固有名詞、登場のタイミングや起承転結によって判断されます。例外として「既存の著作物を認知せずに生成した結果、特徴が一致した」場合は依拠性がないと判定され、著作権侵害にはなりません。

 

また、個人利用目的での閲覧・コピーなどは、著作権法で著作権の権利制限行為として許容されており、著作権の侵害には当たりません。したがって、個人利用の範囲であれば、既存の著作物との類似性があっても著作者の許可は不要です。

2. 既存著作物の加工や修正にAIを使用した場合

AIに既存著作物を取り込んで加工や修正を行った場合は、著作権侵害となる可能性が高くなります。たとえばアーティストの写真やイラストレーターが掲載したイラストを学習させて生成すると、特徴が酷似した作品に仕上がります。ただし、これらが直ちに著作権侵害となるわけではなく、上記の類似性、依拠性の要件を満たす場合にのみ著作権侵害となります。

特定の作品のみと対照して酷似している場合には著作権侵害となり、他方で特定の作品との酷似はなく、あくまで当該イラストレーターの作品風のものに留まる場合には著作権侵害に当たらず著作権侵害はないということなりますが、その判断は難しいと言わざるを得ません。

許可なくインターネット上にアップロードすると、著作者の利益を不当に害するリスクがあるため、あくまで個人利用にとどめておきましょう。

3. AIツール提供元の利用規約に侵害する場合

AI生成物が著作権侵害と判定されるケースには「そもそもAIツール提供会社の利用規約に違反していた」事例が多く存在します。既存の著作物や商標・第三者の写真の加工を禁止しているサービスや、商用利用に制限を設けているサービスも少なくありません。

 

利用規約に違反した場合、既存著作物の著作者だけではなくサービス提供会社からも損害賠償を請求される可能性があります。日本では現状、法律の整備が追いついていないため、提供会社の規約を確認しましょう。

著作権侵害に値しないケースとは?

基本的に、AI利用者が著作権の侵害を防ぐポイントは以下の3点です。

 

  1. 既存の著作物を参照しない
  2. 既存の著作物を利用する場合は商用利用しない
  3. 既存の著作物を利用した作品を商用利用する場合は許可を取る

 

著作権の侵害は既存の著作物との「類似性」と「依拠性」によって判断されます。既存の著作物に最大限配慮することで、著作権侵害のリスクを大きく回避することが可能です。

著作物を学習データとしてAIに利用する場合の許可は不要!

既存の著作物をAIに学習させる行為や、収集した学習データでプログラムを開発する行為は、著作権侵害に該当しません。本来、著作権法では既存の著作物を意図的に収集し活用することは「複製」に当たる行為と見なされます 。ところが「著作物に表現された思想や感情を利用しない」 情報解析、情報処理に留める場合は、著作権者の権利を直ちに侵害するものではないため、著作者に承諾を得る必要はないと定義されています。

 

つまり、情報解析を目的としてAIに著作物のデータを入力する行為は、著作権法の例外として承諾を得ず実施可能です。ただし、有料販売されているデータを無償でAI学習に利用するなどの行為は「著作者の権利を不当に害する」と見なされるリスクがあります。利用する著作物によっては、従来どおり承諾を得る必要があるでしょう。

著作権以外でAI生成物を保護できる3つの法律

2023年現在、日本ではAI生成物を保護する専門の法律が存在せず、AI生成物が文化や芸術分野から外れるものは著作権法から除外されます。ただし、特定の生成物は以下の法律で保護することが可能です。

 

AI生成物を保護できる法律

  • 特許法…生成物が機械・通信機器の開発などの特許の要件を満たす場合
  • 商標法…ロゴやネーミングなどの商標に該当する場合
  • 不正競争防止法…AI生成物が秘密管理性や有用性などの営業秘密に該当する場合

 

現時点では、上記の法律がAI生成物を保護するために重要な役割を果たしています。今後AI生成物の普及が進むにつれて、法律の改正や制定が徐々に行われるでしょう。

AIツール利用者が注意するべきこと

AI生成物が著作権侵害と認定された場合、既存作品の著作者から削除・配信停止を求める裁判を起こされるリスクがあります。損害が発生した場合は高額な損害賠償が請求されるリスクも発生するでしょう。

 

AIを利用して作品を生成する際は、以下の点に注意が必要です。

 

  • 目的の行為が著作権の侵害にあたらないか
  • 既存の著作物と特徴が明らかに一致していないか

 

AI利用者は「特徴が一致している著作物が存在しないか」をできる範囲で確認し、類似している作品があった場合は無断利用を避けましょう。著作者に承諾を得るか、作品の違いがわかるように大幅に手を加えて利用することで、著作権侵害のリスクを回避できます。

海外におけるAI生成物の裁判事例2選

以下では「AI生成物が著作権を脅かしている」と著作者から申し出があった事例を解説します。安易な考えで著作物を利用すると訴訟問題に発展するリスクがあります。実際の裁判事例を把握し、リテラシー意識を高めましょう。

1. データ学習

2023年7月、アメリカの人気作家3名が、ChatGPTを運営する「Open AI」と「Meta(旧・Facebook)を相手に集団訴訟を起こしました。AI学習に著作物が無断で使用されたことを「大規模な盗作行為」と非難し、損害賠償を求めています。「Open AI」は既存作品の学習を「対価支払い式」にする意向を示しており、今後の動向が注目されるでしょう。

2. 画像の無断利用

2023年1月、アメリカ・サンフランシスコのアーティスト3名が作品を無断で画像生成AIに利用されたとして、著作権侵害の訴訟を起こしました。訴状対象は画像生成AIの大手運営会社「Stability AI」「Midjourney」「Deviant Art」の3社です。連邦地裁判事は「類似性が認められるのは作風である」と判断したため、訴訟の大半を棄却する意向を示しています。

 

訴訟を受けた「Stability AI」は、今後のアップデートで「アーティストが作品を除外するように申請できるように対応を進める」と発表しました。

まとめ

生成AI作品の権利を保護する法律そのものは、現時点では制定されていません。著作権法や特許法、不正競争防止法などの既存の知的財産保護の各法律によって対応されているのが現状です。そのため、必ずしもAI生成物の実態とは合致しない部分があるので、著作者側が権利を主張できなかったり、AI利用者側が知らない間に著作権を侵害したりするリスクがあるでしょう。

 

既存の著作物との関連性を調べ尽くすことは不可能に近いため、以下の点を意識することが大切です。

 

  • AI生成の際には独自の創作表現を必ず加える
  • 著作物を生成に利用する際は「不当に害する行為ではないか」を必ず確認する

 

技術が進歩するほど法律が複雑化するため、クリエイターは一層気を引き締めて作品を取り扱う必要があります。今後の動向に注目しつつも、節度を守って作品制作を楽しみましょう。

 

文化庁ー著作権が「侵害」された場合の対抗措置
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/pdf/93736501_12.pdf

著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=345AC0000000048

著作権法第二条15号より
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=345AC0000000048

著作権法第三十条の4号より
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=345AC0000000048

経済産業省ー不正競争防止法テキスト
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/unfaircompetition_textbook.pdf

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