社内報コラム

元ラグビー日本代表キャプテン 廣瀬俊朗氏 スペシャル配信第2弾 対談レポート 「廣瀬俊朗×JFEスチール 共に向き合う“組織づくり”」

元ラグビー日本代表キャプテン 廣瀬俊朗氏 スペシャル配信第2弾 対談レポート 「廣瀬俊朗×JFEスチール 共に向き合う“組織づくり”」

6月28日に廣瀬俊朗氏トークショー第2弾として、JFEスチール株式会社 組織人事部制度企画室長の上野正之氏とのスペシャル対談を配信しました。国内有数の企業が抱えるコミュニケーション・組織づくりのリアルな悩み・課題に、廣瀬氏が共に向き合い、未来へのビジョンを語り合いました。当日のスペシャル対談の模様をご紹介します。

相手に寄り添うリーダーシップをどう発揮するか

上野様 :廣瀬さんが書かれた「相談される力*1」を、心に響いた箇所に付箋を貼りながら3回拝読したのですが、マネジメントをする上で非常に示唆に富んだ本だと感じました。まず響いたのが、背表紙の「キャプテンなんて、なりたくなかった。」という言葉。自分の意思と異なってポストに就く人は企業にも多くいるので、そんな方々にもメッセージとして響くものがあるんじゃないかと。

廣瀬様 :ラグビーの場合、キャプテンは監督やヘッドコーチに指名されてなるものなんです。私は皆を従えていくというより、一歩引いた視点から物事を見るタイプなので、キャプテンをやりたいと思ったことは一度もありません。でも、そんな引っ込み思案な人間がキャプテンという役割を与えられ、いろいろ考えながらチーム作りをしたからこそ、得られた視点があるはず。だから本書を通して、生粋のリーダータイプではないサーバント型の人でも、周りとの関係性の作り方次第で可能性が開けるよと、少しでも勇気を届けられたらいいなと思っています。

上野様 :リーダーというと、率先して周りを引っ張るタイプをイメージしがちですが、多様性が求められる今日(こんにち)の企業では、トップダウン型よりサーバント型のリーダーが適していると私は感じています。本書を読みながら、これからのリーダーには「相手本位のリーダーシップ」や「寄り添う力」が必要だと改めて思いました。

廣瀬様 :これまでのリーダーを見ていると、上からものを言う人があまりにも多く、私自身はサーバント型を意識してやって来ました。もちろんたまには前に出ないといけない時もありますが、みんなをエンカレッジして一人一人に寄り添っていかないと、メンバーが力を発揮してくれないと思うので、本書を通じて現代に求められるリーダーシップを伝えられたのかなとは思います。

上野様 :ただ、そうは言っても私が勤める鉄鋼会社などは、安全最優先で工場の操業も守らないといけない中、どうしても上意下達になりがちな風土があります。そうした中でサーバント型の、相手に寄り添うリーダーシップをどう発揮すればいいのか。現場のリーダーの方々も結構悩むところもあるので、その辺りのヒントをいただければうれしいのですが。

廣瀬様 :まずは当たり前のルーティンをしっかりやること。大きな変革を起こすのは難しくても、現場を知る人にしかできないちょっとした改善を行っていくことで、リーダーシップは発揮できると思います。そのあたりをうまくくみ取っていきつつ、会社への貢献を積み重ねていくことで、少しずつ組織の風土が変わっていくと思います。成果だけを求めるのではなく、新しいことへの挑戦自体を良しとする風土が作れるといいのですが。

上野様 :成果が求められる側面とは別の、「余白」のようなものが職場にあると全然違うでしょうね。コロナ禍でオンライン対応が増えたことにより、今はその「余白」がないというか、コミュニケーションの機会が取れないのが課題です。私はそんな時、オンラインであっても顔出しで雑談をする時間を設けたりしますが、関係性の作り方について廣瀬さんはどのようにお考えですか?

廣瀬様 : 雑談はすごく大事だと思います。雑談の中に人柄が垣間見えるし、「好きなもの」に関する話題で盛り上がれば場の空気も良くなります。先日何人かと出張で仕事をした際は、合宿みたいに盛り上がりました。パーソナルな所を見せ合うことで仲良くなることもあるので、そういう時間をハイブリッド2に作っていきたいですね。

上野様 :意図的にそうした場を作ることも大事だと。

廣瀬様 :周りがオンラインに慣れてしまったので、「家でいいじゃん」という考え方もあるでしょうが、そこはリーダーが頑張ってオフラインで会う機会も作りつつ、ハイブリッドでやっていきましょうと。そのリスクテイクを、今こそ勇気を持ってやるべきなのかも知れません。

*1「相談される力 誰もに居場所をつくる55の考え(2022年4月発売/光文社刊)
*2 複数のものを組み合わせる

タテ・ヨコだけではない「ナナメ」の関係性の大切さ

上野様 :そんな時にリーダーが持っておくべき道しるべというか、考え方のようなものはありますか?

廣瀬様 :例えば「オンラインではなくここへ来て」と言うと、ちょっとした反発はあるかもしれませんが、そこは覚悟を持ってやり遂げるのも大事だと思います。そしてフィードバックが重要なので、対面で話した時に感想を聞いたり、実際に来たくなるシチュエーションを一緒に考えてもらいながら、いつの間にか味方を増やしていくのもいいかなと思います。

上野様 :リーダーが、未来をどう創っていきたいかを思い描いておくのも大切でしょうね。

廣瀬様 :先のことまで考え、目先よりもトータルでの最適値を見据えた上で、どう覚悟を決めてやるかですね。元日本代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズはとても厳しく、チーム内では反発もありましたが、最終的にはいつも良い方向に導いてくれました。彼が持つ「嫌われる覚悟」や「ブレない軸」はすごく勉強になりました。

上野様 :覚悟ですか。なるほど。

廣瀬様 : 勝つための最短経路を考え、理想形から逆算したチーム作りも上手で、観察力もすごかったですね。合宿の朝食会場では毎朝必ず「元気?」「大丈夫?」と声がけをしながら、選手全員の顔つきや雰囲気をチェックしていました。また、1on1での対話は毎週必ず行い、試合に出られない選手にはその理由を説明したり、励ましたり、そうしたケアを大事にする人でした。

上野様 :当社も1on1を導入しましたが、結構難しい部分がありますね。上司側は1on1をしてもらった経験が少ないため進め方が分からず、部下も何を話せばいいのかが分からない。エディーさんとはどんな感じでやられていましたか?

廣瀬様 :選手側から相談事があってお願いする場合もありましたけど、基本的にはエディーからスケジュールを打診され実施する形でした。また、スポーツ心理学の荒木先生というドクターがおられて、何かあった時にコミュニケーションを取れたのも良かったです。当事者同士だと負けん気や「弱音を吐きたくない」という心理が働きますが、第三者の目で意見を述べてくれるメンタルコーチがいたのはすごく大きかったです。

上野様 :上司と部下による1on1は「タテの二重関係」になってしまうので、そこにも余白があるといいですよね。

廣瀬様 :タテ・ヨコだけでなくナナメの関係、例えば別の部署の上司と1on1をやれば、直接の利害関係がないので素直に思ったことを言えるし、ラグビーのチームでは、キャプテンがそんな立ち位置だったかも知れません。あとは、マネージャーからの励ましの一言に救われた場面もありましたが、これもナナメの関係性です。こうした複合的なサポートが受けられるといいですね。

理想の住まいを作るように人生をリノベーションしていく

上野様 :40歳を超えたころにコンサルタントの方と一緒に約2年間、会社の組織改善プロジェクトに関わりました。そしてプロジェクトが一段落した頃、その方から「上野さんは、自分の命を使って本当は何をやりたいのですか?あなたの使命はなんですか?」と問いかけられたのですが、答えられなかったんです。

廣瀬様 :客観的な視点からズバリ問われた。

上野様 :はい。ちょうど自分と会社の関係性や、組織内での自分の在り方に疑問を感じていた時期だったので、しばらく悶々(もんもん)と過ごしました。その後いろんな所へ飛び出て新しい出会いや学びの機会を得るうちに、「会社の中だけでなく、人生を通じて自己実現していくことが大切だ」と気づき、徐々にその視点で行動を起こし始めました。コーチングを学んだり、コミュニティーを作ってみたり、音声を配信したり…。いろいろやり続けながら、狭いキャリアだけじゃない所で人生を広げていくことが大切かなと。

廣瀬様 :すぐに行動を起こされたのが素晴らしいですね。

上野様 :私は頭で考え過ぎる性分なので、なかなか一歩が踏み出せず最初は恐る恐るでした。でも「誘われたら断らない」をモットーに出会いを広げていくうちに、未来に対する臨場感のようなものが湧いてきて、「あんな生き方がしたい」と思える人たちと出会えました。今は「会社の中で生きる私」を超えて、「さらに広い世界で人生を生きている私」の臨場感がだんだんと大きく増してきた感じです。

廣瀬様 :一つのことを極めていくのもいいですけど、よそ見や寄り道も人生にとってはすごく大事ですね。

上野様 :60歳だった定年が後ろへ延びていく中、「この先どうなりたいのか?」と自分に問いかけた時に、まず、今まで培った経験やスキルセットを大切にしながら必要な新しいものを取り入れ、要らないものは手放していく。まるで理想の住まいを作っていくように人生をリノベーションしていけたらいいなと思います。「あるものを活かして新しいを創る」って感じですね。

廣瀬様 :会社の業務の中でも、そうした考え方は生かされているんですか?

上野様 :「あなたはこの先どんなキャリアを歩みたいですか?」と問いかけるようなキャリア研修を行ったり、一人一人の思いを引き出すために1on1を導入したりと、少しずつですが広げていこうとしています。

廣瀬様 :そうした取り組みがどうなっていくのか、個人的には楽しみです。

上野様 :働くことが幸せにつながる会社や世の中にしていきたいし、小さなことから働きかけていけば、少しずつでも広がっていくのかなという思いはあります。

廣瀬様 :日本代表チームでも選手たちは最初のころ、エディーさんの言うことを全員が信じたわけではなく、小さな輪が少しずつ広がって、いつの間にか大きなうねりになっていった気がします。あえてファーストペンギンになる人がいて、それに巻き込まれる2人目がいて…というのが大事なのでしょう。

上野様 :つい最初から100点満点を目指しがちですが、多分それは違っていて、直観的に「いいな」とか「楽しそう」という自分の感情や想いを少しずつ広げていくところからスタートするのがよいのかもしれません。

廣瀬様 :仕事の楽しさや社会的な意義が見えてくると、人材採用にもつながっていくので、企業の発展という観点からも大事なことだと思います。

上野様 :鉄鋼業は公共性の高い業界でないかと思っていて、自分たちが作るものが社会にどう貢献しているのかを、私たち自身も認識し社会に発信していくことで、そこに共感する方が集まってくれるんじゃないかなと思います。そして中で働いている人も、単に作業をこなすのではなく、働く意味がどこにつながっているのかということをお互いに考え、発信していくことが大切ですね。

 

廣瀬俊朗 プロフィール

株式会社 HiRAKU 代表取締役 / 元ラグビー日本代表キャプテン

1981年生まれ。5歳からラグビーを始め、大阪府立北野高校、慶應義塾大学、東芝ブレイブルーパスでプレー。東芝ではキャプテンとして日本一を達成。2007年日本代表選手に選出、2012〜13年はキャプテンを務めた。現役引退後、MBA取得。ラグビーW杯2019ではドラマ「ノーサイド・ゲーム」への出演など大会を盛り上げた。現在はラグビーの枠を超え、チーム・組織作りの発信や、スポーツの普及・教育・食・健康など多岐にわたり活動中。

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