社内報コラム

【ウェビナー開催レポート】 相談される力とは 組織・コミュニケーションの悩みに寄り添う

【ウェビナー開催レポート】 相談される力とは 組織・コミュニケーションの悩みに寄り添う


「相手が主役」という気持ちで「聞く」姿勢を保つこと

―2022年4月に著書「相談される力 誰もに居場所をつくる55の考え」を発売された廣瀬さんですが、この本を世に出そうと思われた背景を教えてください。

コロナ禍を機にいろんなものが分断され、社会環境に変革が起きたことで、寂しさや辛さ、プレッシャーを一人で抱えている人は多いだろうなと感じていました。そこで、「これからどうしよう?」と悩む人たちを前に、「いつでもおいでよ」と気軽に相談に乗れるスタンスでいられたら、お互いもっと助け合えるし、もう少し頑張ってみようと思える世界になれると思い、「相談される力」をテーマに書いてみたいと思いました。

―人から相談された時、廣瀬さんご自身はどんなスタンスで受け止めますか?

一つは、まず「聞く」姿勢でいることですね。そもそも相手は「聞いてほしい」と思っているはずなので、常に「相手が主役だ」という気持ちで臨むよう心掛けています。もう一つは、私が答えを出すとか何かをしてあげようと思い過ぎないで、相手の話を「そうなんだ」とフラットに受け止めること。私が解決してやろうと肩に力を入れると、かえって変なプレッシャーや意気込みが相手に伝わってしまうからです。

―話の聞き方、タイミング、場所なども大事ですね。

カジュアルな相談もあれば、少し重くて誰にも聞かれたくない相談もあるので、相手の性格や相談の内容に応じていろいろと考える必要はあります。そして、本来の意味での「姿勢」も大事かもしれません。ふんぞり返った人には相談したくないですから(笑)。

―「話を聞く」というのはシンプルではありますが、いろんな意味で相手に対する姿勢が問われますね。

相談されるからって、別に自分が偉いわけでも何でもありません。逆にこちらが困って相談したい時もあるし、お互いが助け合って生きているので、相手に対するリスペクトの気持ちを持ちつつ歩み寄って行きたいと思っています。

置かれた環境の中で考え行動を積み重ねた結果、今の自分になれた

―廣瀬さんは学生時代から日本代表時代までの全てでキャプテンを務め、まさにラグビーのエリート街道まっしぐらというイメージですが、これまでを振り返ってご自身ではいかがですか?

エリートという感覚は全くありません。リーダーとしても「俺について来い」というタイプではなかったし、人前で話すのも好きではなく、どちらかと言えば内にこもる方が向いているかもしれない。先日受けたアセスメントでも、コミュニケーション力の評価は高くありませんでした。なので元々資質があったわけではなく、そうした環境に置かれて「どうしたらいいのか?」と考え、行動を積み重ねた結果、今の自分が出来上がっただけ。先天的にリーダーシップがあったかというと、全然そんなことはありませんでした。

―リーダーに任命され、そのハードルをクリアするために懸命に考え、行動を起こした結果だと。

どんな環境に身を置くかは、人が成長する上でとても大事なこと。私自身少しずつステージが上がる中で競技レベルも上がり、外国人を含め多様な人が周りにいて、年齢層の幅も広くポジションもさまざまでしたが、そうした中でチーム作りを経験できたことが、すごく大きな「学び」になったと思います。

―「元々優秀な人だから」ということではないと…。

今まではうまくやって来られたかもしれませんが、自分はまだ40代。この先80歳になった時に「たいしたことないな」と言われているかもしれないので、そうならないよう学び続けたいし、それこそ「相談される人」でありたいです。

1対1でコミュニケーションを取り、共に考えるのが廣瀬流リーダーシップ

―例えばシーズン途中で優勝の行方が決まってしまった時、廣瀬さんはどんなスタンスで残り試合に臨んでいましたか?

負けには必ず理由があるので、そこを改善したい思いはもちろんあります。ただチームが掲げている世界観や目的など、自分たちがコントロールできることを一生懸命やっていく方が、勝ち負けよりも大事だと私は思います。そのシーズンはもう勝てないとしても、次のシーズンに良い思いをするためには、残りシーズンをどう終わらせるかがとても大事。どう次につなげて成長と育成に結びつけるか、そんな観点からチームのみんなと接するようにしていました。

―負けた時こそ、今後どういうチームにしていくべきかをしっかり皆で話をするということですね。

勝っている時は気分も良いし、「勝ったからエエやん」という雰囲気になるのですが、負けた時こそ自分たちがそもそも何のために頑張り、どこを目指していたのか、腹を割って話しやすいタイミングです。中途半端に負けを受け止めることはせず、けんかするくらい言い合って互いにスッキリすれば、いい感じの切り替えになってもう1回エナジーがたまり、モチベーションがアップしてまた頑張ろうという気持ちになれます。

―結果が出ない時、リーダーは大声で叱咤(しった)したり鼓舞したりというシーンもあると思うのですが、廣瀬さんはどうでしたか?

みんなの前で全員を鼓舞することはあまりなくて、1対1で「どうする?」とか、「どうやっていこうか?」と話し合うタイプでした。そもそもラグビーが好きでチームに入ってくれたはずのみんなが、楽しくラグビーをしていなかったとしたら、それはリーダーの責任でもある。だからこの環境を変えていくために、自分自身が変わることも念頭に置きつつ、相手にもどう変わってほしいかを一緒に考えていくというスタンスでした。

等身大の自分の言葉で語ることが大切だと気づいた東芝時代

―東芝でキャプテンを務められた時はいろいろと悩まれたことも多かったのでは?

私がキャプテンになったのは、東芝がトップリーグ3連覇を成し遂げた翌年から。勝って当たり前の強豪チームを引き継いだプレッシャーもあり、前任者の影を追うのに必死で、1年目は全くうまくいきませんでした。そこでみんなからのフィードバックが必要だと思い、アンケートを取ったり個別に話を聞いたところ、「リーダーが不在だった」とか、「何を考えているのか分からなかった」という声が…。

―そこまではっきりと言われたのですか?

言われました。特に同期の人たちはすごくはっきりと言ってくれたんです。もちろん腹が立つとか悔しいとかいろんな思いはありましたけど、これがみんなの正直な声だと思うと逆にありがたいなと。ではリーダーとしてどうあるべきかと改めて考えたとき、自分のスタイルや自分が本当に大事に思うことを、きちんと自分の言葉で語るべきだと気づいたのです。

―そこから何かが変わったと。

自分の言葉で語るようになってからは、少しずつみんながサポートしてくれるようになりました。私のスタンスがはっきりしたことで、足りないところは自然に誰かが助けてくれるようになったんです。全部自分で完璧にやろうと肩肘張っている間は、誰も助けてやろうとは思わないでしょうが、ダメなところを含め等身大の自分を見せるようになれたことで、お互い楽になったのかもしれません。

―廣瀬さんなりの、リーダーとしての形ができたわけですね。
スポーツチームのキャプテンは、だいたい同じような道をたどるものです。最初は「全て自分でやらなければ」と突っ走り、「こんなに頑張っているのに何でついて来てくれないの?」と孤立し、やがていろんな人からフィードバックをもらって「ああ、そうだったのか」と気づく。そうなると、後は自分のパフォーマンスとチームを俯瞰(ふかん)するバランスの問題です。俯瞰し過ぎてもプレーに集中できないので、プレーヤーでありながらリーダーであるという特殊な立場の中で、いろいろと学んでいくわけです。

現場で話し合う事で方針は浸透し、良き文化は継承される

―「自分たちが何のために頑張り、どこを目指すのか」というお話がありましたが、トップが経営方針をメッセージとして打ち出しても、社員への浸透やモチベーションアップにまで行き着かない、という話をよく耳にします。廣瀬さんはリーダーとして、方針や目的をチーム内でどう共有されましたか?

「自分たちは何のためにラグビーをやっているのか?」「どんな世界観を持っているのか?」について、選手間でコミュニケーションを取る機会を何度も設けました。回数はめちゃくちゃ多かったです。現場で話し合うことで腹への落ち方も違うし、ベテランから若い世代へ良い文化が継承されチームワークの強化にもつながりますから。

―企業に置き換えても同じことが言えそうです。

例えば会社のミッションや目的を部や課でのレベルに置き換え、「自分たちの部署にとってどんな意味があるのか?」を定期的に話し合うのも一つのやり方です。もしそれが現場の実態とかけ離れているなら、そのことを上層部に話してもいい。給料をもらって仕事をするというのは、本来そういうことじゃないかなと私は思います。もちろん、いろんな現実があるのは重々承知なので簡単には言えませんが、自分自身に嘘をつかないためにも、そういう姿勢で臨むのが理想の形かなと。

―今後はどんな活動をしていきたいですか?

自分はスポーツの世界で30年間頑張って来たので、アスリートならではの知見を通して世の中に貢献できればうれしいですね。それもコンサル的な立場ではなく企業の皆さんと一緒にワクワクしながら、今までにないプロダクトやサービスを「共創」できたらいいなと思っています。

廣瀬氏が皆様からの質問に直接お答えするQ&Aコーナー。ライブ配信視聴をお申し込みいただいた企業様限定の特別企画です。組織作りやリーダーシップ、人材教育など皆様のお悩みを事前にお寄せ頂き廣瀬氏に回答して頂きました。

質問①
企業の広報担当ですが、経営方針やトップメッセージを組織に浸透させるのに苦心しています。
廣瀬さんはチームに方針や目的を浸透させるために、どんな取り組みをされましたか?
まずはあなた自身が経営方針やトップのメッセージについて、どれほど腹落ちしているのかが大事です。自分が心底良いと思えないものを浸透させるのは難しいし、自分に嘘をつくことになりますからね。

その上でどうするかという問題ですが、私が意識したのは、日常の練習とチームの方針・目的をつなげることです。東芝はキャプテンの他に8人の「リーダーシップグループ」があり、彼らがチームの方針や目的に共感してくれて、事あるごとにその人なりの思いを込めて語ってくれたので助かりました。

私一人だけではなく、日常的にいろんな人が少しずつ違う角度で方針について語ってくれたので、そこから少しずつ浸透していったと思います。また、キャプテンは記者会見などメディアの前で話す機会が多いので、意識的にそうした話をするよう心掛けました。

質問②
絶大なパワーを持つリーダーがいる組織で、配下のメンバー全員に当事者意識を持たせる仕掛けがあれば教えてください。
ベストアンサーは「そのリーダーがいなくなること」です(笑)。パワフルな人が全部物事を決めて、「やれ」と言われてしまうと、目下の人は当事者意識を持てませんからね。

ただ現実問題としてその人を除くのは難しいでしょうから、例えば「これをやれ!」と命じられた時、そこにプラスα(アルファ)で新しい提案を出し続ける姿勢が大事だと思います。

また、その人との関係性にもよりますが、「あなたがいなくなった時、組織はどうなるでしょう?」とか、「長い時間軸で見た時にこの組織のあるべき姿って何でしょう?」といった話をその方とする機会を持てば、何かが変わるきっかけがつかめるかもしれません。

質問③
中小企業では多くの管理職がプレーイングマネージャーですが、ほとんどマネジメントができていないのが実情です。廣瀬さんはリーダーでありプレーヤーでもありましたが、その難しさを感じたことはありますか?
私は自分のプレーそのものがチームにとってすごく大事だと思っていたので、まずは自分が良いプレーをしながら、どう周りをマネージしていくかという順番で考えていました。

そしてラグビーの場合キャプテンに人事権はないので、「この人と一緒に頑張ろう」とみんなに思ってもらえるよう、ある程度みんなに寄り添いながら仲良くワイワイとやっていくことを心掛けていました。

あとは、普段からいろんな人にフィードバックをもらいながら、学んでいくスタンスでいいと思います。最初から完璧にできるプレーイングマネージャーなんていませんからね。

質問④
チームのモチベーションの維持、目標の共有をうまく進めるコツはありますか?
モチベーションの維持に関しては、とにかく新しいことへのチャレンジを続けることだと個人的には思います。「次こんなことやってみよう」とか「こんなことやったらおもろいんちゃう?」とか、ちょうどいい難易度のテーマを次々と持ってくるわけです。

そして成果を出すことより、学ぶことや成長できることの楽しさに目を向けさせることで、チャレンジ自体が楽しいという風土を作っていけると思います。

質問⑤
産休明けですが、「キャリアを生かしてリーダーをやってくれ」と言われています。でも私は支えるタイプなので引っ張っていく自信がありません。どうしたらいいですか?
「支えるリーダー」になればいいと思います。私自身、リーチマイケルのようなプレーで引っ張るタイプではなく、支えるリーダー型でした。

みんなが楽しく力を発揮できる環境を作ることが、チームワークの強化につながると考えていたので、それも一つのやり方じゃないかなと思います。

もちろん「この方向で行きたい」というものをリーダーとして示す必要はあるし、最終的な決断を下すことも必要ですが、方向性自体もみんなで考えればいいのかもしれませんし、必ずしもリーダーが先頭に立たないといけないわけではありませんからね。

質問⑥
相談をする側のコミュニケーションのコツってありますか?
まずは「時間を作っていただきありがとうございます」という感謝の気持ちを持つこと。

あとは、自分のエゴや願望を持った上でとりあえず聞きに行こうか…という軽い姿勢ではなく、フラットなスタンスで真摯(しんし)に、ある程度の熱量を持って相談すること。その方が相手もきちっと受け止めてくれるし、相手にとってもきっと何らかの「学び」があるので、お互いに良い時間が過ごせると思います。

 

廣瀬俊朗 プロフィール

株式会社 HiRAKU 代表取締役 / 元ラグビー日本代表キャプテン

1981年生まれ。5歳からラグビーを始め、大阪府立北野高校、慶應義塾大学、東芝ブレイブルーパスでプレー。東芝ではキャプテンとして日本一を達成。2007年日本代表選手に選出、2012〜13年はキャプテンを務めた。現役引退後、MBA取得。ラグビーW杯2019ではドラマ「ノーサイド・ゲーム」への出演など大会を盛り上げた。現在はラグビーの枠を超え、チーム・組織作りの発信や、スポーツの普及・教育・食・健康など多岐にわたり活動中。

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